「烓吾」


 至近距離で視線が絡み合って、慈人はそっと目を閉じた。


「こんな時に名前呼ぶとかさぁ……ほんと、狡いんね……」


 坂下はそっと慈人の後頭部に手を遣り、慈人は彼の首に腕を回す。

 押さえ込んでいた感情が爆ぜる様に。

 貪る様に、くちびるを合わせて、舌を絡める。

 追い詰める様な坂下の動きに吐息ごと奪い取られて、舌を食まれる。


「……んっ、はぁ……」

「……チカも、エロい声出すんだね」

「俺が、女だろ?」

「なんだ、演技だったん? 切ないなぁ」

「ばーか。煽ってやってんだよ」


 ニヤ、と慈人は笑って、坂下の首筋に噛り付く。

 歯型が付いた所を慈人が舌でなぞると、坂下の身体がぴくりと揺れた。


「……チカって、なんてゆーか小悪魔だよね」

「何だよ、それ」


 慈人が笑うと八重歯が見える。

 坂下にはそれが小さな牙の様に見えて、密かに可愛いと思っていた。


「悪魔の誘いに乗ったら、身も心ももっていかれるでしょ」


 言いながら、坂下は慈人の身体をソファに押し付ける。

 深くくちづけて。

 昂ぶる熱に、身を委ねて。


 聖夜の夜に、過ちをひとつ。


fin




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