「──そんなにしたいなら、キス、してみるか?」
「……え?」
酔って虚ろになっていた坂下の目が見開かれる。
聞き間違いじゃないかと思って「キスって言いったん?」と問えば「キスって言った」とすんなり返ってきた。
「いやあの、実は辻村くんが彼女だったらいいなー、なんて思ったことはあるんだけどさぁそれとこれとはまた別なんじゃないかと……」
「思ったならいいじゃん」
坂下の反応に、普通はそうだよな、と思いつつも、言ってしまった手前慈人は引く事ができない。
「で、すんの? しねーの?」
慈人の頬が俄かに赤くなっているのは、酒の所為だろうか。
慈人にじっと見つめられ、坂下は身体を起こしてゆっくりとソファに乗り上げた。
「じゃあ、辻村くんが彼女ってことで」
「キスすんのに女も男もあるかよ」
「キモチの問題だって!」
「んー……じゃあ、俺はお前の彼女で……チカって名前な!」
「そんな設定いらないよ」
「いーから! 俺は今からチカ! はい、呼んで!」
言いながら、慈人は坂下の袖を掴んで軽く引く。