「あー……キス、したいなぁ……」
唐突過ぎる坂下の呟きに、慈人は「なんだそれ」と軽く返す。
「最近してないからさぁ……」
「付き合ったばっかでフラれたんだもんな」
「辻村くんは無いん?」
「何が」
「どうしようもなくキスしたいーってなんない?」
「まぁ……無くはない、な」
「そうでしょー。それなら俺の気持ち分かるよね?」
分かると言えば分かるが、分かったところでどうしようもない。
ちらりと慈人を見上げてくる瞳が同情を求めている。
ウザいと思う反面、慈人自身も酒が入っているからか、妙な方向に思考が揺らめく。
そう言えば、最後にキスをしたのはいつだろうか。
慈人の想い人は、実の姉だ。
ハードルの高すぎる恋だという自覚はある。
眠っている彼女の唇を勝手に奪って自己嫌悪に頭を抱えていた過去が思い浮かんだ。
浅ましい思いを拭い去る為に実家から離れて暮らしているというのに、中々その想いは消えてくれない。
いっそ、偽りでもいいから恋をしたなら薄れてくれるだろうか。