息を切らして駐車場につくと、そこには床に座りこんだ渚だけが残っていた。
中田と隼人の姿は何処にもない。
慌てて渚に駆け寄ると、顔は殴られたのか腫れ上がり、服はズタズタに裂けていた。
俺は直ぐに着ていたジャケットを脱ぐと渚の肩にかけて包み込んだ。

「おい!何があった?あいつらに何された?」

渚は俺の声に何も言わず、声も出さずに一筋の涙だけを流していた。

俺は、あの時、恐怖感から逃げ出し渚を1人にした事を後悔した。
自分の撒いた種で、渚に全てを肩がわりさせたのだ。
渚を抱き寄せ、強く抱きしめた。
そして、声を荒げて泣いた。
それは自分への不甲斐なさと情けなさにだった。

「私ね…」

静かに渚はそう切り出した。

「本木さんを騙してた…私に本木さんを誘惑しろって中田さんと友達だった隼人に話を持ちかけられて、お金が必要だったから報酬をもらえる計画にのった。でも、本当のあなたを知って苦しめるて追い詰める度に、私の胸がズキズキ痛んでた。あなたが好きだと気付いた時点で私はあなたの前から一生姿を消そうと思った。隼人があなたを殺すと電話で話したのを聞いた時、勝手に身体が電話で聞いた場所に動いてた。」

そして、渚はこう告げた。

「私、本当はずっと前から本木さんに会いたかった…会いたくて、やっと会えたのに、あなたを傷つけてばかりだった。」

渚はニッコリとそう俺に笑いかけて言った。
そういい終わるとゆっくり目を閉じた。
俺は何度も身体を揺さぶり渚の意識を取り戻そうとする。
しかし、反応は全くない。
俺は今にもパニックを起こしてしまいそうになりながら早く救急車をと思い、震える手で渚の身体を抱き上げようとした時、一台の車が駐車場に入ってきた。
その車はいきなり、俺と渚の前で急ブレーキをかけると、ヘッドライトを思いっきり浴びせてくる。
俺は思わず、眩しさに目を細めた。
運転席を確認しようとした瞬間にドアが開き出てきたのは、西岡だった。
西岡は心配そうな顔でこちらを見る。

「早く、車に乗せよう。俺が病院に連れて行く。もしかしたら、軽い脳震盪を起こしてるかもしれない。」

西岡は軽々と渚の身体を抱き上げ、俺に後部座席を開けるようにと言った。
無事渚を後部座席に乗り込ませ一緒に乗り込もうとした俺に西岡は後部座席のドアを閉めた。

「俺が渚を病院に… !」

その続きを言おうとした俺に西岡は首を横に振る。

「本木君はライブ会場に戻って。大丈夫。彼女は僕が病院に連れて行くから心配する事ない。それに、君、さっきから身体の震えが尋常じゃない。これ以上この状態の彼女と一緒にいるのは、君の為にもならないよ。」

西岡はそう俺に言いのこし、急いで運転席に戻ると、駐車場から猛スピードで出て行った。