「そういやさ?」
「ん?」
1限目の教科、すなわち数学の教科書を準備しながら、話しかけてきた咲羅の言葉に耳を傾ける。
「いーっつも!私の恋話しかしてないけど…琴音、好きな人いないの?」
…ついに、聞かれたか。
私が今まで、してこなかった話。
今日の寝不足の原因でもある話。
諦めきれない、逃げた私の話を。
「咲羅?私が、恋したことあると思う?そんなのしてるわけないでしょ?」
引きつったような笑みで咲羅に嘘をつく。
バレたら、どうしよう。
「…そっか。そうだよね!琴音が恋してたら私の話だけじゃなくて琴音の話をしてるか!」
「そう!そうだよ!…ほら、先生来たよ!」
話の流れを戻さないように。
タイミングよく入ってきた先生に話をずらした。
__また、私は逃げた。私の弱みを知られないために。