「蓮見…。」
「ごめんなさい、存じ上げませんし、覚えなどございません。急いでるので、失礼します。」


目の前の人が言いかけたことを遮るように言葉を被せる。

聞きたくなかった。


聞かなかったら、まだ、気のせいで終われたのに。



分かってしまった。


蓮斗。蓮斗。

本当にあなたなんだ。


けれど、否定した手前このまま知らないフリを通すしかない。


私は蓮斗の隣を通り過ぎようとした。


「待って。」

通り過ぎようとした私の腕を蓮斗は掴む。

「本当に、杏じゃないのか…?」


そう、悲しそうな顔をして聞いてくる。