「よろしいのですか?」
真下に広がる夜景。ビルより高い空で2つの影が揺らめく。
「はい。」
もう1つの影が答える。
「では、私は戻ります。また後で。」
と言って一つの影が消えていった。

「・・・ついに見つけた。」
そう呟いてもう一つの影も消えていった。


季節は冬。誰もが白い吐息を吐きながら街の中を歩いている。
海のあるこの街では、強い風が吹いていた。
決して活発さを想像させないこの季節は時に人を
寂しくさせる。

特にこの冬を厳しく感じている少年がここに一人・・・。

少年は一人、塾からの帰り道を歩いている。
少年は中学校3年生。成績は優秀だ。
だがスポーツが苦手だった。眼鏡をかけた姿がなんとなくそんなイメージを
抱かせる。
「おい、待てよ!」
少年に向かって後ろから叫ぶ奴がいた。
「お前またテストでいい点取ったからって調子ん乗ってんだろ!」
同級生の松田だ。
少年はうつむいたまま黙って前に前にと進んでいく。

松田「おい!無視すんなよ!」
と言って少年の肩をつかむ。
正直いつもこんなことばかりでうんざりだった。
学校ではまじめさと成績の優秀さが買われて
(周りの人間がめんどくさかっただけ)
学級委員長を務めるようになってから、さらになにかと
クラスメイトに些細な事で絡まれる事が増えてきた。

はあ・・とため息をつきながら
「何?」
と松田に聞き返す。

松田「だから調子に乗ってんだろって言ってんのが
聞こえなかったんかよ?」
と少々怒り気味。

眼鏡を拭きながら少年は
「調子に乗って?塾に通って勉強してんだし
当然の結果だろ。」
と冷静に返す。

松田「こ・・んのやろ・・マジむかつく」
ピアスをいじくりながら少年をにらみつける。
松田「あぁ、うぜ!」
吐き捨てるように言い残し、帰り際に少年の肩に自分の肩をわざと
ぶつけて行ってしまった。

はぁ・・・少年はまた歩き出した。