抱きしめながら、ケンが私の耳元で言った。
「大丈夫だよ」
何が大丈夫なの?
大事な書類なんだよね?
ケンが私から離れて、バッグを開いて紙を1枚出した。
「もう1枚あるから♪」
私は安堵でまた泣いてしまった。
「なんで泣くんだよー!」
ケンが笑いながら頭を撫でてくれた。
「これ、すげー大事だけど、仕事の書類なんかじゃないよ。ちえ、よく見て」
見せられた紙には【婚姻届】という文字が並んでいた。
驚いて涙が止まった。
「婚姻届書いてたんだよ」
ケンがニコッと笑う。
「そうだったんだ…」
「ホッとした?」
「うん…ホッとしたし、びっくりした」
「何驚いてんだよ。結婚するんだから、婚姻届書くだろ」
再びケンが笑った。
私もつられて笑った。
「そうだよね!」
「ちえ、一緒に書こう」
「うん!あ、その前に紅茶淹れ直してくるね!」
私が立とうとすると、
「いいよ」
とケンが抱きついてきた。
「でも、ケンの紅茶…」
「今行ったら、ちえが泣いたのご両親にバレるだろ。俺が何かしたと思われちゃう」
「確かに」
私は座り直した。
「さ、書こ♪」
ケンも座り直して、テーブルに婚姻届を広げた。