リビングに戻ると、父はまたソファに座っていた。
母だけは一歩も動いていなかった。
「本当にいいの?」
母が私に聞いた。
「何が?」
「あの人でいいの?」
「お母さん何言ってるの。ケンは真面目で優しい人なんだよ?」
さっきのケンの姿を、母も見ていたはずなのに。
欠点なんてなかったように見えたけど。
「社長なんだぞ」
父が口を挟んだ。
「社長かどうかなんて関係ないじゃない」
母が返す。
「社長ならお金があるからきっとちえを大切にしてくれるはずだ」
「そりゃあお金はある方がいいけど…だからって社長かどうかなんて関係ないでしょ?」
両親の言い合いに割って入った。
「お母さんの言う通り、社長かどうかなんて関係ないよ。実際社長だってことはさっき知ったことだし」
「さっき知った!?あんた、彼氏がなにやってる人かも知らないで付き合ってたの?それなのに結婚なんて言い出したの?」
母に指摘されてしまった…。
「そうだけど。でも私はケンの人柄に惚れたの!」
「人柄って…高そうな指輪もらったから気持ちが揺らいだだけじゃない?目の前に人参吊るされた馬とおんなじね!」
私の指輪を見て、母が言った。
「そんなことないもん!」
そう言い捨て、私は自分の部屋に移動した。