「あ、ああ。おはよう」


俺がそう返事をするが、彼女はもう聞いていないのか、本に視線を落としたまま動かなかった。



「……あの、何で小早川がここにいるんだ?」


おずおずと、俺は読書中の小早川に話しかける。
俺の問いからワンテンポ遅れて、小早川が口を開いた。


「ここで本いつも読んでるから」

「……そうだったんだ。それって毎日?」

「別に」


素っ気なく言う小早川。
彼女の手にしている本にはブックカバーがしてあって、タイトルがわからない。


どうしようか、脳味噌をフル回転させていると唐突に小早川が切り出した。


「あの、先生」

「ん?」


まだ、本に視線を落としたままだったけど小早川は続けた。



「何かあったんですか」

「え?」


小早川の言葉に、俺は目をぱちくりとさせる。


「眉間に皺を寄せたまま寝てたから」

「……ああ」


その理由はわかってる。
きっと小島さんに言われた言葉が原因だ。



「……なあ、俺って偽善者か?」


ぽつりと独白する様に呟く。
ぴくりと彼女の肩が動いた。