「やっぱり桜見てるのか」


一歩一歩彼女に近付く。
俺も同じ様に桜の木を見上げた。



「その、何かが降って来るとかってのも、桜が嫌いって事と関係してる?」


そう尋ねた。
ゆっくりと彼女はこちらに視線を寄越すと、その薄く色付いた唇を動かす。


「どうだっていいでしょ」


冷たく放たれたそれは、俺を拒絶していた。


わかってたけど、やっぱり話してはくれないか。 
少しだけ眉を下げると、尚も俺は尋ねる。



「どうしたって俺は小早川の力になれないのかな」

「……」


もう、俺を見る事さえしてくれない。


「俺は力になりたいんだ」

「……」


小早川は返事をする事なく、この場から去ろうとするから思わずその腕を掴んでいた。
華奢で細い腕。これ以上強く握ったら折れてしまいそうな程。



そして、袖から微かに見えた手首にあったモノ、それは。


―――――――――傷痕だった。