「長島、さん・・・」

思わずこぼれた言葉に、長島さんがゆっくりと振り向き

あの優しい微笑で私を見る。

その瞬間、一つ心臓が大きく跳ねた。


翔「あ、可鈴ちゃん」


覚えていてくれたーー・・・

そんな小さなことに喜んでいる自分がいる


「梢、誰?」

すると、長島さんの後ろから知らない男の人が顔を出した。

背が高く、顔も整っているその男の人は

警戒心を剥き出しにしていて、その姿が主人を守る賢い犬と重なった。


そんな男の人になんと言って良いか分からず

隣に友達がいるのに気づかず、声をかけた自分を責めた。

すると、そんな私の様子に少し笑って

「昨日の飲み会で一緒だったんだ」

そう男の人に説明してくれた。


「一年だから紀李の同級生だろ?」

「あ、そうなんだ」

紀李と呼ばれた男の人はその言葉に警戒心を解き

人見知りだけが残った表情で私に手を差し出してきた。

「武田紀李、よろしくね」

「大宮可鈴、です・・・よろしく」

握ったその手が思っていたよりもずっと温かくて、少し驚いた。


ふと隣を見ると、そこにさっきまでいたはずの茜の姿はなかった。

「あ、あれ・・・」

気を使ってくれたつもりなのかもしれないと思い

心の中で大きく息を吐いた。

長島さんはそういうのじゃないって言ったのに・・・


ーー『忘れられない人がいるらしい』


茜の言葉が、ふと頭の中に響いた

こんなにも綺麗で、こんなにも穏かに笑う長島さんに

そんな辛い思い出が本当にあるんだろうか

それとも、やっぱりただの噂なのかな・・・


「梢、俺同じ学年で初めて知り合いが出来たよ」

冗談っぽく笑いながら武田さんが長島さんにそう言うと

彼はふわりと柔らかい笑顔で、小さくうなずいた。


「こいつ、人見知りだからさ・・・見かけたら声かけてやって」

「あ、はい・・・」

「母ちゃんみたいなこと言わないでよー」

「ああ、ごめんごめん」


武田さんの言葉に可笑しそうに笑いながら謝る長島さんは

多くの花が咲き誇るこの中庭の中で


どんな花よりも、綺麗だった