私大宮可鈴と元彼の長島梢の出会い


それは平凡な出会い


 
ニ年前の春・・・


「お願い!」

隣を歩く私の数少ない友人が、まるで拝むように手を合わせる。

はっきりとした顔立ち

スタイルのいい体型

そこにいるだけで目立つ容姿をする松橋茜は、私に必死に頭を下げる。

「私が人見知りって知ってるでしょ」

「お願いよ!」

飲み会の人数がどうしても足りないらしく、彼女は何度も頭を下げてきた。

「もー、分かったよ」

「来てくれるの!?マジありがと!」

上機嫌に私の腕を引いて歩く茜とは対照的に

私はため息をつきながら重たい気持ちを引きずるように歩いた。


やがて着いた店には、茜の知り合いの先輩らしき人が集まってた。

もうすでに飲み会は始まっているらしく

どの人も顔を真っ赤にして私達を迎えてくれた。

 
「松橋、その子誰?」

一人の男の人が茜の後ろに隠れるようにして席に着いた私に視線を向ける。

「私の友達です」

「どっかサークル入ってる?」

男の人の呂律は酔っているのかかなり怪しい

酔っ払い相手にするのはいやだったが、茜の先輩なら仕方ない

「どこにも・・・」

「じゃあ、うちのサークル入れば良いじゃん」

「はぁ・・・」
 
 
そしてその男は席を移り、私に勧誘を始めた。

勘弁してよ・・・

そう思い茜に助けを求めようとすると

彼女はすでに席を移り、何やら真剣に語り合っていた。

「入れって!楽しいから!」

「はぁ・・・」

何度目になるか分からない言葉を繰り返したころ

私はもう帰りたくて堪らなくなり

わざとらしくため息をついたりしてみたが

酔っ払った男はそれにも気づかない。

いいかげん腹が立ち、立ち上がろうと腰を浮かせかけた


その時ーー・・・


「もうやめろよ」

店の奥から聞こえた涼しげな声が鼓膜を揺らした。

くだけた格好の人が多い中、彼はスーツを着込んでいて

そんな人がいるなんて今の今まで気づかなかった。

 
「俺はまだ飲める~」

そう言って立ち上がろうとした男はバランスを崩した。

「ほら、飲みすぎだって」

そんな男を彼はあっさりと抱えて

 
「そっち持ってくれる?」


私にそう笑いかけた。


 
ーーこれが梢との出会いだった