「俺は冬って苦手だな」

二人で熱いコーヒーを飲んでいると、紀李がふとこぼした言葉。

その視線の先には、いつの間にか小雪がちらついている冬の街がある。

 
そして、コーヒーカップを持つその手に光る指輪は

私の左手で光る指輪と同じものだ。

二人で住み始めてすぐに紀李がくれた指輪

この光を見る度に、心がぽかぽかと温かくなる。

 
「どうして?」

紀李と同じように窓の外に広がる景色を眺める。

「だって何か、寂しいんだもん」

「寂しい?」

「寂しいし悲しいし、楽しい気分になれない」

 
ーー『俺、冬が好きなんだ』

何度もそう私に笑いかけるあなたの横顔が、ふと浮かんですぐに消えた。


「だからね、俺は夏が好き」

「あ、ぽい」

「賑やかで楽しくて、すごく幸せって思えるよね」


 
紀李と梢は全くと言っていいほど、反対の人だった

紀李は感情をストレートに表すのに対して

梢はいつも優しく微笑んでいた

 
行動も考え方も、全てが反対の二人


・・・なのに、手のぬくもりは驚くほど似ていた

柔らかいぬくもり

安心するぬくもり

幸せを感じるぬくもり

多分、本人も気づいていないこと

私しか知らないこと

それは誰にも知らせたくない、私だけの秘密・・・


 
「あ、時間ヤバイっ!」

時計を見て、紀李は慌ててコーヒーを飲み干して立ち上がった。

つられて見るともう午前八時半過ぎだった。

紀李の慌てぶりを横目に、私は静かにコーヒーを飲む。

「あれ?可鈴今日授業は?」

「私は二限目から、急がないと遅刻だよ」

「じゃ、行ってくんね!」

ばたばたと玄関に向かう紀李に

「いってらっしゃい」と声をかけて、また窓の外に視線を戻す。


急に静かになる部屋

窓の外をちらつく雪を眺めながら、ゆっくりと目を閉じた。


梢、覚えていますか?

私達の最後の日も、こんなふうに朝から雪が降っていたね


・・・私も冬は苦手です

どうして?

冬は、あなたを特に色濃く思い出してしまうからーー・・・


まぶたの裏に浮かび上がった笑顔に

涙が一粒こぼれた。