朝目が覚めて、何となくカーテンと一緒に窓を開けた。

その瞬間部屋に入り込んできた冬の空気に、思わず身を縮ませる。

 
そして、少しだけ胸に痛みを覚える。


 
ーー冬が好きな人だった

 
彼自身は穏やかで、まるで春のように温かい人だったのに

どうしてだか、冷たくて悲しい冬が好きだった

私の肌の白さを、まるで雪のようだと言ったこともあった

 
・・・でも、今では全て過去のこと


・・・全て、過去の思い出のこと


「ん・・・寒いよ、可鈴」

「ごめんなさい、起こしちゃったね」

まだ半分夢の中にあるような甘い声に振り向くと

ベットの上で布団に巻きつくようにして起き上がる姿があった。

その子供のような行動に、思わず頬が緩む。


細長い手足

整った綺麗な、でも安心する顔

黒目がちの優しい瞳

その全てが、私を包み込むように柔らかく微笑む。

 
「何で窓開けてんの?」

まるで私を寒さから守ろうとするように

今の彼氏である武田紀李は私を優しく抱き寄せた。

その温かさに、またひとつ胸が痛みを訴える。


「・・・寒くなってきたなと思って」

「そだね、もう冬だね」

「だね・・・」


もう冬・・・

また、冬という季節が巡ってきた


同じ事を考えたのか、紀李が少しふと押し黙る。

冷たい空気が二人を静かに包んだ。


「ねぇ、可鈴・・・」

「何・・・?」

やがて口を開いた紀李は、どこか遠くを見たまま

私のほうを少しも見ないまま言葉をつないだ。

 
「梢・・・今どこにいるんだろうね」


私のほうを見なかったのは、きっと彼の優しさ

それを分かっているから


「さぁ?どこだろうね」


私はわざと、何でもないことのように呟いた。


 
ーー梢と別れて二年・・・


ねぇ、梢

・・・二年だよ

もう、二年もたったんだよ・・・

 
 
あなたが恋人だった私の前から姿を消して二年

 
あなたが友達だった紀李の前から姿を消して二年


「・・・朝ごはんにしましょうか」

「あ、俺も手伝うよ!」

 
 

ーー初めはただの知り合いだった私達が

一緒に住むようになって半年がたとうとしていた。