桜の花びらが黒いアスファルトを、鮮やかな桃色に染めつくす

そして、やがてその桃色も色あせる

汚いものが綺麗になる

綺麗なものが汚くなる

そんな春の終わりが私は好きだった


「紀李、可鈴」

相「あ!梢!」

アスファルトに広がる桜の上をまるでじゅうたんのように歩きながら

長島さんが私達に向かって手を振ってきた。

その手には難しそうな分厚い本が抱えられている。

「お前ら授業は?」

「お休み」

「また・・・」

あきれたように笑いながら、長島さんは私を見た。

「ちゃんと授業でないと後で大変だぞ」

冗談っぽく私を睨む櫻井さんが、何だかとても眩しく見えた。


いつの間にか、長島さんにとって私は「飲み会にいた子」から

「友達の友達」へと変わっていった。

遠いような近いような微妙な距離

前よりずっとよく話は出来るのに

そこから先へは決して近づくことの出来ない距離

ーー心地良いのに、疎ましい距離


長島さんに釘を刺され、私達はしぶしぶ授業に向かった。

「あーあ、面倒くさい」

「紀李って長島さんには弱いよね」

「頭上がんないね」


「ーーあ・・・」

次の講義が行われる教室に移動している時

ふと、窓の外に長島さんの姿を見つけた。

中庭の真ん中で、数人の女子に囲まれる長島さん。


ーーズキ・・・

胸が、痛かった


「あ、梢また囲まれてる」

私の視線に気づいた紀李が、ひょいと窓から身を乗り出した。

また、か・・・

紀李の言葉にも密かに傷つく自分がいた。

長島さんは目立つし優しいから、人気があるのは当たり前

ていうか、私には関係ないし・・・


・・・なのにどうして、こんなにも痛いんだろう


「梢、優しいから断れないんだよねぇ」

「そうなの・・・?」

「そ、行きたくないのにご飯とか誘われるとだめなの」

「じゃ、あれも迷惑してるだ・・・」

「うん、そだね」

紀李は迷うことなく、大きくうなずいた。

「梢香水の匂いとか気分悪くなっちゃうんだよね・・・」

紀李が心配そうにそう呟いた。


「ーーあの」

「ん?」

「私、ちょっと・・・!」

「え、可鈴?!」

気づいたら体が動いていた。


「ーー長島さん・・・っ」


私の声が静かな中庭に響いた。