「待ち合わせですか?」
「まあな」
カウンターの端から女の寝息が聞こえる。
モノトーンでまとめられた薄暗い店内に、真っ赤なキャミソールが不釣り合いだ。
グラスを回収した時と逆の動作で、新しいカナディアンウイスキーが男の前に出された。
「遅れてるんですか?」
声まで女のように艶がある。
「あんまり客の詮索はしないほうがいいんじゃないかい?」
「お連れさん……来ませんよ」
グラスを宙でとめて、男は視線だけをバーテンに向けた。
薄明かりの中に能面のような白い顔が浮かんでいる。
「なに言って……」
視界のはしに赤い影がちらついた。
寝ていたはずの女が、立ち上がって男を見下ろしていた。
「彼女、お連れさんですよね?」
「だからなに言って……」
女の真っ赤な唇の端から、血が一滴こぼれた。
うすく開いた瞳が男を見つめている。
「加藤さんには先に逝ってもらいましたよ」
宙に止めたグラスから水滴が落ちる。
身動き出来ないまま、男はバーテンと女を交互に見た。