カウンターに突っ伏した女の肩から、下着の肩紐が露になっている。
左手に額を乗せ時折なにかつぶやきながらも、右手はしっかりとグラスを握りしめていた。
外国製の細く長い煙草が、灰皿のふちに忘れ去られている。
その形のまま燃え尽きた灰が、重みに耐えかね崩れ落ちた。
血のような赤い口紅のついたフィルターが、カウンターの中から伸びてきた手につまみ出された。
女の隣に座っていた男は肩をすくめて席を移った。
カウンターの中央に腰をおろし、何本目かのタバコに火をつける。
「お連れ様では……?」
「まさか。勝手について来ただけだよ」
それっきり会話は終わり、再びグラスを磨く音だけが、店内に響いた。
薄暗い照明にバーテンの黒服が同化している。
わずかに反射するグラスと、女のように白く細い指だけが宙に浮いているように見えた。
「何か作りましょうか?」
バーテンの言葉に男は空になったグラスを見つめた。
「そうだな……同じやつでいいよ」
真っ白い指がカウンターの奥から突き出て、グラスを回収する。
グラスが暗闇に引きずりこまれるような感覚に男は思わず口角をゆがめた。
指に挟んだタバコをフィルターが焦げるほど強くふかす。
それを灰皿に押し付けながら、いまいましそうに腕時計を見た。