お風呂から出てリビングに戻ると、テーブルの上に放っておいたスマホが光っていた。
確認すると、LINEのアプリが起動している。
表示されている名前は『渡来晃汰(わたらい こうた)』。
時間は今から5分前。
メッセージには『へるぷ』という言葉だけだった。
ああ、またか。
あたしの胸は半分沈んで、半分弾んだ。
髪を拭き、ソファに寝転がって、あたしは晃汰とのトークルームを開いた。
〈ごめん、今気付いた。どうしたの?〉
要件は見当がついているけど、あえてそんな文章を書く。
これもすっかり『へるぷ』という言葉同様パターン化していた。
《助けてほしいなう(´・ω・`))》
すぐに既読になって返事が返ってきた。
ずっと待ってたんだなと思いながら、あたしはどんどんタップしていく。
〈だからどうしたのよ〉
《俺もう泣いちゃうつらたん》
〈あっ(察し) 水野サンのこと?m9(^Д^)9mプギャー〉
《そうだよ(;_;)》
《おいやめろm9(^Д^)9mプギャーは わりとガチで凹む》
《(/_;)(/_;)(/_;)(/_;)(/_;)》
〈泣きすぎwwwごめんごめん^ω^;〉
〈で、今日はどんなポカやらかしたの?(゜_゜)〉
《文章化すんのけっこうはずいし苦行だから電話していい?》
既読になって少し間を空けて、そのメッセージが届いた。
思わずどきりとしてしまったけれど、あたしはなんともない風を装ってメッセージを送信する。
〈おっけー、電波いいとこ動くから1分後にかけて〉
《うぃ(^^ゞ》
あたしはハンドタオルを首にかけて、裾をまくりあげていた部屋着のスエットパンツを降ろして、Tシャツにジャージを羽織ってベランダに出た。