三日月が雲に見え隠れする闇夜。


とあるビルの屋上には、2つの影が蠢く。



「これ以上黙ってられないわ。」



1つは20代後半ぐらいの女。


意志を固めた強い口調で、女は話始める。


しかし、話の相手であろうもう1つは陰になって見ることが出来ない。



「証拠だってあるのよ。」



眼下に広がる夜景を見ながら、女は確信を持って言う。



「ねぇ、お願い。自首して。」



振り向き、女は懇願する様に言うが、相手は答えない。


再度、夜景に体を向ける女だが、表情は明らかに諦めきれていない。



「公表したっていいの。でも、長い付き合いだから。」



伏せ目がちに、悲しい表情で転落防止の手すりを握り締める。


そして、意を決した様に、女はもう一度振り向いた。



「ねぇ、おねがっ……ちょっと何を!」





キャ――――……………





響き渡ったのは、静寂の夜に似つかわしくない叫び声。

その直後には、重さのある何かが落ちた音。



数分後、ビルの屋上から影は跡形もなく消えていた。