葬儀から帰って。

結局引き取った、彼の楽器を。

泣きながら、抱きしめた―――


彼の大好きだった、サックス。

彼の命だと言った、この楽器。

私は、この楽器を譲り受けたけれど。

一体これから、どうやって生きていけばいい?

彼を失って、どうやって―――



サックスのケースを開けると、手入れの行き届いた、ピカピカのサックスが現れる。

眩しい側面に、私のぐちゃぐちゃの泣き顔が映る。



そして、その楽器とケースの間に。

小さな白いメモが挟まっているのを見つけて。

私は、苦しいような気持ちでそれを開いてみた。



 『   今度こそ、すみれに贈る

     君に、受け取ってほしいんだ

     できれば君に、吹いてもらいたい

     わがままで、ごめんな       』



走り書きのようなその文字。

少し、右上がりの春次郎さんの文字。


そのメモを見て、私ははっとした。

そして、ほんの少しだけれど。

光が見えた気がした―――



この楽器を、このままにしてはいけない。

私は、サックスを吹けるようになって。

春次郎さんみたいにうまくなって。

この楽器を、自分の楽器にすればいいんだ。

それを、春次郎さんは望んでる―――



「わかった。」



小さくつぶやいた。

春次郎さんを、安心させるように。

何度も、何度も。