それから、医師と看護師が、再び処置をして。

しばらくして、春次郎さんは目を覚ました。



「宮迫さん、」



石井先生に呼ばれて。

私は、そっと、春次郎さんの傍に行った。



「春次郎さん。」


「……すみれ。」



彼は、笑った。

満足そうに、笑ったんだ―――



「春次郎さん、」



ただ、彼の手を握って、その名前を呼ぶことしかできない私に。

彼は、優しい目を向けていた。



「ねえ、すみれ、」


「ん?」


「伝えたかった、ことが、……ある。」


「なに?なに?春次郎さん。」


「……ずっとそばにいてくれて、ありがとう。」


「春次郎さん……、」



そんなこと、言わないでよ。

まるで、お別れみたいじゃない。

違うんだから。

春次郎さんは、私の前からいなくなったりしない。

これからもずっと、そばにいるんだから―――



「それと、……」


「ん?」



彼は、苦しそうに息をついた。

私は、彼を覗き込んで、その言葉を聞き取ろうとする。



「……好きだったよ、……すみれ……。」


「春次郎さんっ、」



涙が、堰を切ったようにあふれ出した。

ずるいよ。

卑怯だよ、春次郎さん。

こんなときに、こんなときに言うなんて。

そんなに大事な言葉、過去形で言うなんて―――



「春次郎さん、私も、」



ピ―――――――――――



無機質な音が、病室に響いた。

結局、また邪魔されて言えなかった。

私の気持ち、言えなかった―――



「好き。好き。好き。大好きっ!!!春次郎さんっ!!!!!!!」


「18時51分、ご臨終です。」



どんなに、どんなに伝えたかっただろう。

この胸いっぱいに、あふれるほどの、好きという気持ちを―――


ねえ、春次郎さん。

好きだと、大好きだと。

涙が出るんだね。

幸せでも、悲しくても、いつも、涙が出るんだね―――



「うわあああ!!春次郎さん!!!」



彼に縋るようにして泣けば。

まだ彼の温もりが、私の体に伝わってくる。

私を、優しく抱きしめてくれた温度。

器用で、優しいその手のひらの温もりが―――


私は、ずっとそのまま。

その温もりが消えてしまっても。

ずっと彼に縋り続けていた。


自分の体温が彼に移っているだけなのだと、気付くこともできずに。