実は、その日。

私は春次郎さんに内緒で。

『heaven』のメンバーを、音楽会に呼んでいた。

春次郎さんは嫌がるかもしれないと思ったけれど。

それでも、そうしたかったんだ。

春次郎さんのためにも、……円花さんのためにも。



私たちの演奏順は、最後だった。

春次郎さんの体調を考慮して、会場に向かったのは自分たちの出番の直前だ。

見ると、想像を超える人数の人が集まっていて、私は一気に緊張してしまった。



「すみれ、緊張してるの?」


「……うん、すごく。」


「大丈夫だよ。」



いつものように、ふわっと頭を撫でてくれる。

それだけで、不安が安らぎに変わって行くから不思議だ。

サックスを自由自在に操るその手は、魔法の手なのかもしれない―――



「さあ、行こう。」



春次郎さんは、ぎゅっと私の手を握って離すと、颯爽と歩き出した。

二日前まで、ベッドの上で目を覚まさなかった人とは思えない。

私は、出会ったころと同じようにかっこいい彼を、慌てて追いかけて会場に入った。