三日後に、音楽会を控えたある日のこと―――



「春次郎さん。」


「ああ、すみれ……。」


「具合悪いの?」


「いや……、大丈夫だ。」



いつもと様子の違う春次郎さんに、私は嫌な予感を覚えた。



「先生、呼ぼうか?」


「大丈夫だよ。」


「ほんと?」


「……うん、……ケホ、ケホッ。」



彼は、軽い咳を繰り返した。



「春次郎さん?」


「ケホッ、ゴホッ、……っ!」


「春次郎さん!!!」



私は迷わずナースコールを押した。

体を倒した春次郎さんの、口に当てた指の間から。

筋になった血液がどくどくと流れ出す。



「春次郎さん!!春次郎さんっ!!!」



叫ぶ私の後から、先生と看護師さんが走ってきた。

目の前で、意識を失った彼に処置が施されていく。


私は―――


何もできなかった。

彼が目の前にいるのに。

大好きな春次郎さんが、そこにいるのに―――


何も、できなかったんだ。


私の震える体を。

もう抱きしめてはくれないその人が。

微かな命の火を絶やしそうになっているのを。


私は遠くから、ぼんやりと見つめていた。