「春次郎さん!」



今日も、私は彼の病室を訪ねる。

今日は、何の話しをしようかな。

彼は、一体どんな言葉を、私に投げつけるかな。



「あのさ、」


「ん?なに?春次郎さん。」


「僕の病気、知ってんの?」


「……知らない。」


「じゃあ、余命は?」


「……余命?」


「余命宣告されたんだ。」



言わないでほしかった。

私も春次郎さんと同じだよ。

現実から、目を背けたい……。



「三か月。僕の余命。」


「……え。」


「もっと早く入院していれば、治ったかもしれないって、そう言われたんだ。」


「春次郎さん……。」


「受け入れられると思う?そんなの、理不尽だろ。おかしいだろ。」



彼の怒りは、今は私でない何かに向けられていた。

自分の運命とか、神様とか、そういうものに。



「そうだね。……理不尽だよ。おかしいよ、春次郎さん。」



そう口にすると、彼の背中が小さく震えた。

彼は、全身で泣いていた。

彼が楽器を演奏するときに、全身で美しい音色を奏でるように。


彼は、病気になっても。

こんなに痩せて、弱ってしまっても。

それでも、なお―――

眩しいオーラを纏っている。


だから、だからこそ。


彼が泣くと、周りの空気まで震えるようで。

その儚さに、自然と涙があふれてきてしまう。


こんなにも、素敵な彼を。

やっぱり神様は、自分のものにしたいのだろう。

彼を弱らせて、理不尽に命を奪って。

『heaven―天国―』でずっと、楽器を演奏できるように―――


だけど、そんなの私が許さないから。

彼の命を、私は諦めないから。

私だって、彼がほしい。

彼に、ずっと、ずっとそばにいてほしい―――


泣いている彼の背中に、そっと触れる。

拒まれるかと思いきや、彼は静かに背中を震わせるだけで、私の手から逃れようとはしなかった。


春次郎さん。

私には、甘えてよ。

私は、強くなるよ。

どんなに寄りかかられても、絶対に倒れたりしない壁になる。

そして、春次郎さんを守るから。


あなたの、苦しみも、涙も。

全部、私が引き受けるから―――