春次郎さんのことが好き。

私は、彼のために何ができる?


今すべきこと。

それは、楽器を返すことじゃなかった。

私は、あまりに無神経だった―――


彼は、サックスなんて見たくないはずなのに。

誰よりも、何よりもサックスを愛する彼だからこそ。

今、楽器を見せられることは、何より苦しいことなんだ。

そんなこと、少し考えたら分かるじゃないか。

ばか。

私のばか。


彼のために?

ほんとうに、私が彼のために何かしてあげられる?

そんなの嘘。

できるはずがない。

私は、彼を元気にしてあげることも、代わってあげることもできない。


じゃあ、彼の言葉通りに、もう会いに行かないのが賢明なのか。

いや、それも違うだろう。


円花さんが言ってた。

「あの人、一人じゃ生きていけない人だから」って。


春次郎さんは、それなのに、孤独を選んだ。

誰にも打ち明けずに、自分一人で病気と闘う道を選んだ。

闘う気があるのかすら、分からないけれど―――


私にできることは。

孤独な彼に、孤独ではないのだと気付かせることだろう。

それだけだろう―――


どんなに、私につらく当たってもいい。

それでも、春次郎さんのそばにいる。

どんなに、どんなに悲しい言葉を投げつけられようと。

今度こそ、絶対に逃げないんだ。

ずっと、ずっと。

春次郎さんの、そばにいるんだ。


そして、いつか気付いてほしい。

春次郎さんは、一人じゃないんだと。

彼の苦しみを、やるせなさを。

一緒に抱えたいと願う私が、そばにいるんだと―――