そこは、とても大きな病院だった。

白衣の人が、ひっきりなしに歩いている廊下。

なんだか、圧倒されてしまう。



「あの、高梨春次郎さんの病室は……」


「F病棟の3階の302号室になります。」


「あ、えと、F病棟?」


「ええ。あちらに案内板がございますので。」


「あ、はい。……ありがとうございます。」



片手に楽器を、片手に花束を持って。

私は案内板を見上げる。

AからFまで病棟があるらしい。

なんて大きな病院なのだろう―――

そして、その中でも一番遠くの、Fという病棟にいるという春次郎さん。

ふと、心に浮かんだよくない想像を、打ち消すように私は歩き出す。


春次郎さんに会えると思ったら、ほんの少しだけど希望が見えた。

だって、彼はここにいるんだから。

まだ、私の手の届くところに。


F病棟の3階までエレベーターに乗る。

降りると、すぐのところに302号室はあった。


ほんとだ。

プレートには、「高梨春次郎」と書いてある。

私は、ドキドキしながら。

その扉を、小さくノックした。