『starlit night』に着いたのは、いつもなら『heaven』のライブが始まるくらいの時間だった。

だけど、やっぱりライブは始まらない。

春次郎さんは、いない―――



「あの、」


「はい。」



バーテンダーに、思い切って話しかけた。

今日は客もまばらで、彼の手も止まりがちだった。



「あの、……今月、『heaven』のライブはないんですか?」


「ああ、……お客様、ご存じでないのですね。」


「え?」



バーテンダーは、寂しげな顔をした。



「『heaven』は、解散したんですよ。12月のクリスマスライブ以来、ライブは行われていません。」


「解散……、」


「ええ。私も密かに『heaven』は応援していたんです。ジャズ・バーなので、他にもライブをするバンドはありますが。その中でも、彼らは特別でした。彼ら、……いえ、彼の音色は。」



皆に愛されていた『heaven』。

春次郎さんのサックスの、甘く切ない音色。

そのサックスを、今私が持っているなんて、言えなかった。

春次郎さんが、自分から大切なものを手放したなんて、言えなかった―――



「理由、分かりますか?」


「お客様、それは……」


「『heaven』が解散した理由、教えてください!」


「私も尋ねましたが、そればかりは教えていただけませんでした。……でも、リーダーの高梨さんにその理由があるのは、確かだと。」


「それは、どうして?」


「いえ……、随分と揉めていたようなので。でも高梨さんは、頭を下げたまま、何も言い訳せずに……、ただ解散すると、そう言ったんです。」



春次郎さん―――

その切ない胸のうちを思うと、私の胸も苦しくなる。

彼を探して、私は一体どうするつもりなんだろう。

彼の苦しみを、代わりに背負うことなんて、できないはずなのに。



その時、カラン、と音がしてドアが開いた。



その向こうから現れた人と、私は目が合った。



逸らすことはできなかった―――