そして、夕方になってようやく春次郎さんの家を見つけた。

ここだ。

確かにここだ。


だけど―――



「表札が……」



ない―――



その部屋は、引き払われていた。

私の鼓動は、いよいよ早鐘を打ち始める。

嫌な予感は、的中してしまったみたいだ。


私は、隣の部屋のインターフォンを鳴らした。



「はい。」



若い女性が、不機嫌そうに出てくる。

ここは、学生アパートなのだろう。



「あの……、隣の部屋の人、いつごろ引っ越したかご存知ですか?」


「ああ、もう随分前ですよ。一か月以上前かな。」


「あのっ、どこに引っ越すとか、聞いてないですよね?」


「そんなこと、知るわけないじゃん。もういいですか?」


「あ、はい……。急に、すみませんでした。」



膝の力が抜けて、その場に座り込みそうになる。


一か月以上前―――

ということは。

先月会ったときは、もうすでにこの部屋にはいなかったかもしれない。


すると突然、閉まったドアが再び開いた。



「一階の101号室に、大家さんがいるよ。そっちに訊けば。」


「あっ、ありがとうございます!」



見知らぬ人の好意が嬉しい。

私は、言葉通りに一階の大家さんの元に向かうことにした。