あれから、私はどうやって帰ってきたのだろう。

気付くと自分の部屋で、泣きながらサックスのケースを抱きしめていた。



「春次郎さんっ、」



あの痩せた後姿を。

切なげに、小さく振った手を。

頬を伝う一筋の涙を。


思い出すたびに、涙が止まらなくなる。


こんなに泣いたのは、久しぶりだった。




ねえ、春次郎さん。

今、どこにいるの?

何してるの?




泣いてない?―――




この楽器、どうしよう。

私が持っているには、大きすぎる思いのつまったケース。

だけど、いつの日か春次郎さんに返すまで、責任を持って私が保管しなければ。


悩んで、結局ベッドの下に押し込んだ。

そこが、一番安全な気がしたからだ。


だけど、毎晩眠るときに、ベッドの下にあるこの楽器のことを、思わずにはいられないだろう。

春次郎さんに会いたい、と心の底から思った。