駅からは、たくさんの人が出てくる。

みんな、せわしない足音を立てて、どこかへと去って行く。

通過点でしかないこの駅で、私のまわりだけ、時間が止まったみたいだった。



そして、とうとう雪が降ってきた。

私の肩に、ふわり、と雪がのる。



泣きそうになって、私は唇を噛んだ。

きっと、あなたは来る。

どんなに遅くなっても来る。

春次郎さんは、そういう人だ―――



頭と、肩に雪が積もってゆく。

辺りは、だんだん薄暗くなって。

街の灯が、ひとつずつ増えていく―――



だけど、寒くなんてない。

私は、好きな人を待っているんだから。

どんなに悲しくても、切なくても。

彼に会えるというだけで、心のどこかに光が灯ったような気持ちになる。


これが、最後だとしても―――





その時。





私の小さな体を、大きな温もりが包み込んだ。





「すみれ、」



「春次郎さん……」





氷が溶けるようにあふれ出した涙が、私の心を、体を溶かしていく。




「遅くなって、ごめん……。」


「大丈夫。」


「ほんとに、待っててくれたんだな。」




春次郎さんは私の頭に積もった雪をはらう。

そして、ぐっしょりと濡れたコートを脱がせて、代わりに自分のコートを着せてくれた。




「でも、春次郎さん、」


「大丈夫。このくらい。」




春次郎さんは、今どこに住んでいるんだろう。

もしかして、病院だったら。

抜け出してきたのだろうか―――




「ごめん、すぐに帰らなきゃならないんだけど。とりあえず、コーヒー奢るね。」


「え、そんなこと、」


「そのくらいさせてよ。」




春次郎さんが、泣きそうな顔で言う。

だから、私はそれ以上遠慮せずに、春次郎さんとともに駅前のコーヒーショップに入った。