その日は、結局そのまま帰った。

怖くなったんだ。

向き合いたくなかったんだ。



きっと、あの後春次郎さんは、病院に運ばれただろう。

そこで、どうしても真実が分かってしまうのだろう。



私は初めて、春次郎さんの気持ちが分かった。

春次郎さんの怖さが、病院に行きたくないと思う気持ちが、分かった。




あの倒れ方、普通じゃなかった。

そもそも、歩いているときだって。

苦しそうな息を、してた。




「春次郎さん、」




やだ。

やだよ。

あなたに迫る、予感のようなものが怖い。

ただ、風邪をこじらせただけだって。

肺炎になりかけてるだけだって。

一か月くらい入院すれば、治るんだって。


教えてよ。

誰か、教えてよ。


春次郎さんに、伝えたかった気持ち。

でも今は、自分の気持ちすらどうでもよくて。

ただ、春次郎さんが元気なら。

一緒にいられなくても、この先私の知らないどこかで、春次郎さんが生きていけるなら。

私はそれでいい、とすら思えた。



年が明けて、友達と初詣に行っても。

私が願うのは、春次郎さんのことばかり。

自分のことよりも、彼の幸せを、彼の健康を、すべてをかけて祈った―――