「打ち上げ、どこでやる?」


「うちでいいよ。」


「サンキュー。じゃあ、直行していい?」


「ああ。」



ジャズバーを出ると、みんなで春次郎さんの家を目指して歩き始めた。

私はなんだか居心地が悪くて。

でも、春次郎さんの隣にいたかったから、ついて行った。



「さみーなー。もう冬って感じ。」


「ほんっと。冬とか嫌い。」


「何で?」


「だって、寒いだけじゃん。」



前の二人の会話が、耳を素通りしていく。



「すみれ、寒くない?」


「ん?大丈夫。……あ、春次郎さん、風邪治ったの?」


「治ってはないかな。今日は無理矢理、熱下げたんだ。だから、酒は飲まないよ。」


「病院行った?」


「……ごめん、行ってない。」


「どうして?」


「何かやな予感すんだよなー。肺炎だから入院してください、みたいな。そんなこと言われたら、サックス吹けなくなるじゃん。」


「だって……、もし変な病気だったら、ずっとサックス吹けなくなっちゃうよ?」


「だからやなんだって。……だいじょーぶ。心配しないで。」



誤魔化すように笑って、春次郎さんは私の頭を撫でた。

その笑い方も、その仕草も。

なんだか春次郎さんらしくなくて。

嫌だった。



「春次郎さん、」


「ねえ、すみれちゃんってさ、彼氏いるの?」



唐突に、前を歩いていた円花さんが尋ねた。



「え、……いません、けど。」


「あっそ。」



不服そうな顔で、円花さんは前に向き直る。

私は、言いかけた言葉を遮られて、悔しかった。


思わず、言ってしまいそうになったんだ。

春次郎さんに、好きって。


好きだから、心配なんだって。

心配だから、病院に行ってって。

言いそうになったんだ―――


それを読んだかのようなタイミングで、円花さんに邪魔された。



「このマンションの2階。僕の家。」



春次郎さんの言葉に頷くけれど、何だか空しい気持ちで一杯だった。