はっとする。

聴き惚れていたら、いつの間にかライブは終わって―――

春次郎さんは、黒山の人だかりに囲まれている。

よく見ると、同年代くらいの女の子も結構いるんだ。

みんな、春次郎さんに話しかけたり、サインを貰ったり。

春次郎さんは大忙しで、でも笑顔を絶やさない。


ああ、やっぱり私とは、違う世界の人なんだ……。

分かっていたけれど、やっぱり。

それを目にすると、心が翳る。



「春次郎さん!サインください!!」


「いいよ。貸して。」


「きゃー!!!」



私も、輪の中に加われたらよかったのだろうか。

でも、完全に出遅れてしまって、今から輪に加わるなんて不可能だった。

そして、出遅れていなかったとしても―――

やっぱり私は、加わらなかっただろう。

だって、他のファンと一緒じゃ嫌だから。

そんなのわがままだって分かってるけど。

嫌だから……。



仕方なく、輪の外から春次郎さんを見つめる。

サインが終わっても、その輪はなかなか途切れない。

春次郎さんは、みんなに囲まれて、嬉しそうに笑っていて。


急に、一人ぼっちになった気がした。


そもそも、『starlit night』に来るときは、いつも一人ぼっちだったけれど。

だけど、こんな春次郎さんを見ると、もっと、寂しくなって。


帰ろう、と思った。

もうやめようって。

こんなところにいても、みじめなだけだから。


そして、席から立ち上がったとき。





「すみれ!!!!!」





人だかりの中から、はっきりと私を呼ぶ声が聞こえた。

私の、大好きな声。

春次郎さんの声―――



振り返ると、みんな一斉に私を見ていた。

小さくて、子どもっぽくて、見栄えのしない私。

そんな私に、ファンが無遠慮な視線を向ける。




「すみれ、行こう。」




もう一度、春次郎さんは言って。

人だかりを抜けて、真っ直ぐに私の元にやってきた。

そして、私の右手を取って、ステージの裏手へと入って行く。

振り返ると、ファンは皆、呆気にとられたような顔で私たちを見ていた。


私も、何が起きたのかわからなくて。

でも、右手に感じる彼の温度を、確かに感じながら。

引きずられるように、ステージの裏へと入って行ったんだ。