電車が到着しドアが開く。
降りる人はほぼいなかった。
私たちの周りにいた人たちがドアの中に吸収されていく。
壁際に並んでいたため、小走りでその波にのろうとしたが、
急に山崎さんが私の前に立ち塞がった。
「……山崎さん?」
思わず、後ずさりをすると、背中が壁についた。
「俺は中野ちゃんを幸せにする」
発車のメロディーが鳴るとともに、彼は後ろの壁に勢いよく手をついた。
びっくりした。
でも、私を見つめる彼の熱いまなざしに、体の制御を奪われた。
「…………」
人が消えたホームの上で。
閉じられるドアの音を聞きながら、私は山崎さんにキスをされていた。
お酒のせいか、その唇は熱かった。
彼は私を日のあたる場所へ連れ出してくれる人なのだと思う。
そんな人と出会えることを私は心のどこかでは願っていたのかもしれない。