オシャレな店だったらどうしようと思っていたけど、

山崎さんは高架下のお手頃な居酒屋に私を連れていってくれた。


「俺、学生時代全然モテなかったよ。社会人デビュー組」


「本当ですか? 信じられない」


このお店オリジナルのチューハイは、甘すぎないオレンジ味でとても飲みやすかった。


「設計の西村さん、話す時、さ行に全部thがついちゃうんだって。すぉんなのむりですぃよ、みたいな?」


「あはは、そのうち舌噛んじゃいそうですね」


久々にお酒を飲んだ私は、喜怒哀楽様々な表情を見せる山崎さんにつられ、自然と笑っていた。



「ご馳走してもらってすみません。でも、楽しかったです」


山崎さんはJRユーザーだけど、私と同じ路線でも遠回りで帰れるらしい。

夜遅いし今日は送るよ、と言ってきかなかったため、2人で地下鉄の駅へ向かった。


改札を通り、同じホームで次の電車を待つ。


「中野ちゃんは、いつもきっちりしすぎてて心配」


急に彼は真面目な表情になり、そう言った。


暗闇から低い断末魔の叫びのような音が聞こえる。

向かい側のホームに電車が入ってきた。


「たまには思いっきり笑おうね。中野ちゃんの笑顔、俺好きだし」


「そ、そうですか……」


その電車が再び動き出し視界が開けると、向かいのホーム上から人が消えた。


間もなく、ゴオォ、と再び同じ音が、さっきとは逆の暗闇から聞こえてきた。


「あー、帰したくないなぁ」


音に半分かき消されたけど、確かに、山崎さんはそうつぶやいていた。


そして、私の頭を大きな手でくしゃくしゃと撫でた。


低いモーター音と、レールが軋む音、そして大きな心臓音が、全身を揺さぶった。