「ただいま」
家に帰ると、珍しく台所に明かりがついていた。
みりんと醤油の良い香りが漂っている。
「おかえり」
キミはコンロの火を止め、鍋の蓋を開けた。
「何それ、肉じゃが?」
「そう。肉少ないけど」
「ジャガイモと人参使ってくれたんだね」
「うん、腐りそうだったから。てか、今日飲んできたんじゃないの?」
「そうだけど、一緒に食べたいな」
私は小鉢、キミは大皿で食べた。
小さな人参とジャガイモを順に口に入れたキミは、ん、と喉を詰まらせながらそれを飲み込んだ。
「次は茄子とピーマンも克服しよっか」と私が言うと、
「そんな一気には無理だって」と言い、キミは弱々しく笑った。
私も食べてみると、素材本来の甘みと、キミがつけた薄味が合わさり、涙腺を刺激した。
「じゃあ次はネギかな?」
「おれ食べれるじゃん」
「白いとこだけでしょ? 緑の部分も合わせて本来のネギだよ」
そう言って口元だけで笑うと、キミは私の顔を覗き込んだ。
「目腫れてる。泣いたの?」
「ううん」
「うそつき」
「……私も会社、辞めようかなあ」
「何で?」
「あんまヒトと関わらない仕事がしたい」
私がそうつぶやくと、キミは悲しい笑顔になり、私にキスをした。
さっきの山崎さんとのキスよりも、その温度は私に近いものだったため、安心した。
★おわり★