「ふう、死ぬかと思った」
 布団から出てくる。
 と、少女は呆れている。
 おたまもフライパンも下げ顔を覆って、深く溜め息。
 やや頬が赤い。
「昨日も直せって言ったのに」
 金髪の少女、同居人の堂本美琴は小刻みに震えだした。
「朝ご飯はできているな? さあ食いに行くぞ」
「服を着ろ!!」

 彼は服を着て寝ない派だった。

 結局三十分後、疲れ果てた美琴と管理人の彼、二人が向かい合わせに卓袱台に就いていた。
「焼き鮭、しじみの味噌汁、卵焼き、ほうれん草のゴマあえ、などなど。今日は豪勢だね」
「朝を洋食にするとあんまり食べないじゃない」
 美琴は料理が上手かった。
 外見から比べれば、同年代では歯が立たないだろう。
「いや、あれは無理ですって」
「洋食にもいい物はあるのよ」
「ご冗談を。炭は食えませんよ」
 ――ブン!
 茶碗が飛んだ。
 割れないようにブラスチック製だ。
「涙が出る配慮ですね」
 180キロは出ていた左腕選手ですが。
「炭なんていつ出した!? 五年以上昔のことを掘り出すな!」
「半年。激塩辛いマーボー」
「うっ」
「二月と三日前。蛸墨スパ」
「ぐっ」
「二十七日前。餅入りフレンチトースト」
「あうっ」

「あれは美味かった」
「美味しかったんか!」