「で、いったいどうしたの?」
 案の定すぐに復活した彼に対し、小さな胸を逸らして少女は大きな態度。
 はい、と小さくなり手紙を差し出す。
 受け取る少女。
 ――ビキ。
 青筋が立ったのを見落とさない。
「落ち着くんだ。」
「わたしは冷静よっ」
 手紙の端が破けている。嘘はいけない。
 怒髪天を突かんばかりに怒りだしそうな少女だったが、文面を読んでいくと怒りも成りを潜め出した。
 やがてすべて読み終えると手紙を返し。
「御愁傷様」
「御慈悲を」

 便箋は封筒の中にしまい、一通の権利書だけを摘み上げて風に遊ばせている。
 遊ぶな、と取り上げる。安楽椅子の上で膝を抱き、まるで玩具をねだっている拗ねた子供だ。
「行かないの?」
「徹底抗戦の意思表示してもいいんだけど」
「無駄に終わるんじゃない」
「そうでもない。俺の人形たちをフル稼働すればいい勝負だ。隣町のお友達を呼べばたぶん勝てる」
「被害総額は?」
「リアル日本沈没」
「やめいっ」
 ハリセンが飛ぶ。
 安楽椅子ごと転げ落ち下敷きになる。
 ひらり、と嘲笑うように飛ぶ権利書。
 溜め息を吐きながら、少女はそれを受け止めた。

「行くしかないんじゃないの」

「逆らうだけ無駄だよな」

 復活した彼は、何やら筆を持ち半紙に踊らせている。
「何してるの?」
「せめてもの反抗。センスのないアパートの名前変える」
 ピッと墨汁が跳ねた。

『伽儖堂』→『伽藍堂』

「いいセンスだ!」
 そうか?

「ではミコト、支度しなさい」
「久しぶりの外界ね! うんと楽しまなくちゃ!」
「波瀾万丈の間違いでしょう」
 そう、ヨシは溜め息を吐いた。

 一人の魔法遣いと
 一人の少女が
 喧々囂々な世界へ降りていく。