『というかだね、君たちに拒否権はない。
 是非は問わない。やりなさい』

 無茶を言う。彼は呆れた。

『ぶっちゃけた話』

 仮にも手紙なのだから、話の核を包まず話すのはどうかと思う。
 しかし、そんな余裕は長く続かない。

『私の手に負えん。
 あとは任せた』

「待て待て待て待て」

 彼はテンパった。
 それほどまでに、手紙の一文は強烈だった。
 ただでさえ寝起きで頭がいまいち冴えていないというのにこの爆弾発言。
 起爆スイッチは、実にらしく。

『ああ、そうそう。
 もし拒否したら、分かるわね?
 秘蔵の寝床から宝物庫まで全部メチャクチャにしてあげるから。
 大丈夫。たった一言イエスといえば済む問題じゃない。
 どうしても嫌だっていうのなら
 手始めに大切なお人形に落書きするから♪』

 魔女らしい脅迫文だった。

 この時、
 ぷつんと、彼の中で
 何かが切れた。

 震度5。
 ただいまの最新地震情報。
 蕎麦を茹でていた少女は、珍しい災害に慌てふためいた。

「大変だ!!」

 戸を蹴破って彼が入ってきた。
 目が血走っている。
「な、なにごと!?」
「戦争だ!」
 これだけでは意味不明だ。
「……何言ってんの?」
「竹槍を持て!
 種子島を用意しろ!
 B29を撃ち落とせ!」
 時代背景がめちゃくちゃだ。
「落ちつけっ」
 冷静かつ沈着な後ろ回し蹴りが彼を止めた。

 延髄に踵が入った。
 どうせすぐ起きるだろう。