さて、彼は手紙を見つめた。
 髪と同じ色をした日に透かせても、写るのは一通の手紙だけ。内容など分かるはずもないのだが。
「この字、女性か?」
 間違いでもなかったか、と彼は笑う。
 殺気を感じた。
 開いた窓。
 爛々と輝く碧の光。
「嫉妬は女の美徳だね♪」
 包丁が飛んできた。
 垂直なあたり、本気と書いてマジと読めそうだ。
 冗談です、彼の言葉が通じたのかそれ以上物が飛んでくることはなかった。
「物騒な娘になった。誰に似たんだか」
 その似た相手からの手紙だと
 彼はまだ知らない。

 蝋の封を、律儀にナイフを使って開く。
 中にあったのは手書きの便箋と権利書。
 便箋を開き開口一番、ずっと涼しい顔だった彼が苦虫を噛み潰した顔で。
「魔女か」
 千年分の毒を吐き出した、重い溜め息。
 呪いで人が殺せるのなら、間違いなく相手は死んだだろう。
「無理だな。白亜期から生きてきたとか謳っている狂人だ。死んでも生き返る」
 呪うことを諦め、黙って文字に目を通す。

『拝啓 引きこもり魔法遣い様』

 さっそく手紙を丸めたくなる。
 だが真実なだけあって乱暴に扱えない。

 気にしながら続きを読む。

『拝啓 引きこもり魔法遣い様
    苦労の耐えない駄狐様』

 少女にも見せられない。
 彼は溜め息を吐いた。