肉の焦げるいい匂い。
 肉汁滴る芳しさ。
 広い庭では肉の存在がひたすら主張されていた。
「うむ。絶品」
「何を食っている」
 ソースをこれでもかっ! と言うぐらいにぶちまけたハンバーグを食べる芳章。
 その背後に、呆れるように立つ美琴。
「食べる?」
「塩分の摂り過ぎで病院行け」
 今日一日で怒りのストックが切れたか、とてもおとなしかった。
 きちんと自分の分を確保した美琴は、彼の隣に座った。
 そこは喧騒より少しだけ離れたレクリエーション的な空間。
 鉄棒のジャングル、なんて遊具の上から見下ろす彼ら。
 喧々囂々の四文字熟語さえ霞んで思えるほどの喧しさ。
「実感わかないなあ」
「表に出たことが?」
「当たり前じゃない」
 美琴は外の世界を知らない。
 気付いたときには芳章と一緒にいた彼女にとって、世界とは彼がいる事が前提で成り立っている。

「俺がいたんじゃ、中も外も変わらんか?」
「…そうかもね」
 いい意味でも、悪い意味でも。
「目が覚めるとさ、また二人きりなんじゃないかって、思う時があるんだ」

 静かで

 日が赤く

 金色が広がって

「病気かな」
「素直に楽しいって、言えないくらいにな」

 震えていた美琴を引き寄せる。
 力が強かったのか、頭から膝元に倒れこんだ。
「……おい」
「たまには…いいでしょ」
 わざとだった。
 自分から膝枕をされに行った。

 それを気にも止めず、芳章は空を見た。
 今時珍しい、星が数えきれないほど、明るい海が広がっている。
「困ったやつだ」
 そういって、撫でた。
 癖のない髪を、
 金色の稲穂を、
 眠たげな子狐を。
「…きもちい」
 うとうとしながら、
 遠い声が聞こえてくる。