――ずどどどどどどどどどど

 地平線の彼方からやってくる黒い影。もふもふと土煙を上げながら、それらはゴールに向かって一直線。
「下がっていましょうか」
「そうだね」
 自分の直感は大切だ。
 ここに住む誰もが学ぶ基本。

「あたしは負けねえ! 絶対に負けられねえ!」
「喧嘩の相手が違うだろう! いや、本当に」
「このくそネズミ! 勝つために足まで蹴るか!?」
「蹴ってねえ! 払ったんだ!」
 ――ピー!
『イエローカード』

 なんでだあああああ。
 じゃれあう声は近所迷惑に等しいが、この一帯に住む人間は常識の頭に非が付くくらい容認するだろう。
「…煩い」
 非常識さを咎めず自分のテリトリー侵害を憤る者はいるが。
 雲雀は苦笑して数歩下がった。
 彼女の後ろから、双子は覗き見た。
 夏摘親子は既に離脱した。

『さあ、一位は誰だ!?』

 煽るな。

 デットヒートは熾烈を極め、地響きは鳴り止むことを知らずむしろ増えた。
「ハンバーグはあたしんだ! 近寄るなハイエナども!」
「いつからてめえの物になったんだよ!」
「家事を担当する者として、栄養が偏りまくった夕飯は認められねえな!」

 全力疾走に叫び。よく走れるものだと関心だ。

「おっと、目の前に三丁目のお婆さんだ」
「殺 し て で も 走 り ぬ く」
「やめろこのド外道! 俺はお婆ちゃん子なんだぞ」
「ならそこでババアと戯れてな! てめえの分の肉は頂いたぜ!」
 ――ピー!
「レッドカード」
「誰か退場させろ!」
「てめえ等には無理さ!
 オラ、退けババア!!」

『任務了解』

 りすが老婆の顔面にフライングニードロップを打ち込む。
 直前、緑の光が割り込んだ。