荘の入り口、玄関門を越える一つの影。
 グラウンドに近い広さを持つ庭で一対の主婦が楽しそうに談笑していた。
 母さん、とその人物は二人に近づいた。
「あら、真兎ちゃん〜」
「お帰りなさい真兎。今日は早いのね」
 母譲りの長い髪、どこか雲雀に似ながらも背は二人より高い。160を越える長身は威圧感を生み出すだろうが、彼女夏摘真兎に刺はなかった。
「ただいま、お母さん。今日はお父さんが早いんでしょ」
「手伝ってくれるの〜?」
「もちろん。そのために早く帰ってきたんだから」
 やわらかく笑う。が

「あの煩い蝿どもより先に」

 目が鋭い。抜き身の刄より切れ味がよさそうだ。
 この娘は、嫌いな相手に容赦しないわね。
 わからないよう嘆息する雲雀。
 本当、昔の私にそっくりだ。

『ただいま〜』
 三人の輪に届く、明るい男女の声。それは雲雀が知る、最愛の者たち。
「ただいま、お母さん」
「ママ、ただいま!」
 性別は反対でも、二人はよく似ていた。
 やや切れ長の瞳、
 整った顔立ち、
 亜麻色と黒髪、色の違いはあるが体格も同じ。
 二卵性双生児。
 それが二人と雲雀を繋ぐ絆。

「もう、真兎ったら先に行くんだもん」
 妹の松永利沙は可愛らしく頬を膨らませた。
 少し立腹のようだ。
「二人とも、一緒だったの〜?」
「僕たち同じクラスですから」
 兄松永卓人は人ができていた。
 しかし、そんな態度が真兎には気に入らなかったようだ。
「それでも部活をしていない私の方が先に出る」
「今日はあたしたちも帰るって言ったじゃない」
「朝の内に忘れたね」
 人付き合いそのものが嫌いな真兎だった。
「ほらほら、喧嘩したらダメよ」
 のんきな母と、
 喧嘩腰な娘、
 本当、昔の私にそっくりだと、雲雀は笑った。