「悪いが、俺も先に行くぜ」
「カイト! お前まで俺を置いて行くのか!?」
 久瀬カイトは運動部だった。
 ちなみにエース。足はこの場にある誰よりも早いのだ。
「おっカイトやる気か? 悪いが覚醒したあたしは止められないぜ!」
「ふっ、体力が余っているのは、何もてめえばかりじゃねえ」
「ま、まさか今まで手加減をしていたと!?」

「先行くぜっ」
「舐めんな! 加速スイッチ!」

 ドップラー効果を残して消え去る二人。
 一般的な能力しかない茸原友貴はついてもいけない。
「な、何者だよあいつら」
 長年の付き合いだが、彼らの非常識っぷりにはついていけない。
 もっとも、友貴も同じくらい非常識なのだが。

 ――ぴりりりりりりり

 ※ただ今放送上相応しくない着うたが流れましたので、都合により着信音を変換しております。御了承ください。

「もしもし?」
 電話に出る。
 相手は先に行った暴走族。
『今日の夕飯はハンバーグ』
 カイトまで何を言い出すの出すのか。
『材料が足りねーんだよ』
 ネズミが携帯を奪ったようだ。
 知ったことではなかった。
 つーわけで。
 この一言がなければ。

『このダッシュで負けたやつが買い物な。七時の夕飯には間に合うように』
「それ無理だろ!」

 帰ったところで悪くて18時。買い物をしに、坂の下の商店街にまで往復すれば、支度前に七時など過ぎる。

「くそっ、負けられるかあああ」
 彼もまた凡人ながらも二人についていけるだけはある。
 フェードアウトして消える。
 明日は学校。
 筋肉痛確定だった。