時刻は夕方の17時半。
 学生たちがちらほらと帰り始める時分。
 全力疾走する影が三つ。
「甘い、甘いぞてめえ等! その程度のスピードであたいを抜けるかあ!」
 オレンジ色の髪にいくつリボンを結び付けているのがチャームポイントの、同年代より頭二つ分小さい少女。
「小さい言うなっ!」
 美点はそんなものだ。
 口は悪いし体力は有り余った弾丸娘。
 荘へと続く長い坂道を、後ろを走る男たちに罵詈雑言を浴びせながら駆け抜けている。

「なんて早い体力馬鹿だっ」
「元気が取り柄の子ネズミちゃんだからな」
 その後ろを走る二人。
 見るからに赤毛の不良然とした少年と、同年代の厚底眼鏡を掛けた少年。
 二人は前を行く少女と同じ学校のクラスメイトだ。
 ついでに言うなら幼なじみ兼親友兼ルームメイトでもある。
 この先、伽藍堂の205号室の住人たち。

「て言うかね、あいつ早すぎません? 学校から最高速度維持しっぱなしじゃん!」
「確か50メートル走7秒台だったか」
「早すぎ!」

「てめえ等ちんたら走ってんじゃねえぜ! そんなことじゃあ、夕飯のハンバーグは守れねえ!」
 何故ハンバーグ。
 しかもわざわざ逆走して後ろから追い抜いての警告だ。
「あのスタミナ馬鹿めっ」
「これ以上ネズミを暴走させるわけにはいかねえな」
 ネズミというのは少女のあだ名だ。
 あり過ぎる元気と体力が売りの子澄りす。
 あだ名は鼠とげっ歯類。