「まだ大人じゃないけど、自分で自分のこと決められないような子供でもないだろ、俺達は。
周りの干渉とか気にしないで好きなことに夢中になれるのは、きっと今だけだぞ」


そんなことを言う柳は、あたしが知ってるいたずらっ子なんかじゃなく、れっきとした大人に見えた。

なによ。マジメなことなんて少しも考えてないようなガキだったくせに。


……なんて心の中で悪態をつくけれど、彼が言っていることは正しいと、本当はあたしもわかっている。

もう子供じゃないんだから、自分で自分のやりたいことを決めていいんだって。


だから。注意して見ていないとわからないくらい、小さく小さく頷く。

そんな素直になりきれない女だけど、柳はあたしを見て優しい笑みをこぼした。



動き出した電車の中、数人の立っているサラリーマンから、あたしを隔離するように立つ柳。

密かに見上げてみると、ヤツはぼんやり広告を見上げて口が半開きになっていて。

そのマヌケな姿に、思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えた。


大人になったかと思えば、こういう気の抜けた脱力系なところは変わってない。

それが、なんだかとても嬉しかった。