今でもそれが身についてしまって、本当はバイトをしたり、もっと友達と遊びたいけど、本音を押し殺して生活している。

だから羨ましいんだ。

自分がやりたいことに、何のためらいもなく突き進んでいる柳が。


あたしから給食のデザートを奪ったり、教科書やノートを勝手に使ったりしていたのもそう。

昔から自分の欲望に正直なこの人が、本当はずっと羨ましかった。


「……お前は好きなことやれてねーの?」


横目であたしを見ながら言う柳だけど、否定も肯定も出来ずに目線を落とす。

そのまま電車に乗り込み、閉まっているドアの隅に背中をくっつけて立った。

柳はあたしの横にある座席の手すりに掴まり、ぐっと距離が近くなる。

背の高い彼に囲われたような感覚に、ひとつ心臓が波打った。


「昔からひよりは自分の意見を押し通すようなことはしなかったもんな」


──東條ひよりという人間がどういう性質なのかを見抜いているような、その言葉。

顔を上げると、真剣な表情をした柳があたしをじっと見つめている。