「俺はコレの練習してたんだよ。スタジオが近くにあるから」


柳は自分の背中を指差す。

肩に掛けた黒い大きなケースは、形からしてギターが入っているに違いない。

実はさっきからずっと気になってはいたけど、なんだ、この練習をしてたのか……。


興味深げにそれを眺めていると、あたしの視界に意地悪そうに口角を上げた顔が映り込む。


「ドエロはどっちだよ。妄想力豊かなひよこちゃん?」

「ぅぐ……!」


く、悔しい! そして恥ずかしい!!

紛らわしい言い回しをするアンタのせいよ!……と言いたいけれど、実際妄想力が逞しいことは否定出来ないし。

あぁ……屈辱感で声も出ないわ。


がっくりとうなだれるあたし。だけど、それより柳がギターを弾けるなんて驚きだ。

小学校の頃はいつもリコーダーを忘れてくるくらい、音楽に興味なんてなさそうだったのに。


「……柳、ギターなんてやってるんだね」

「ん、高校の部活でバンド組んでる。ほんと気持ちいいんだぜ、ギター掻き鳴らすのって」


白い息を吐きながら、彼は清々しそうな笑みを見せた。