「し、秋ちゃん……?」


間抜けなあたしの声がこぼれた。

止まっていた時間が動き出すように、秋ちゃんの手が離れていく。

見上げた先には、学校で見せるような、いつもの穏やかな笑みがあった。


「……なんてね、冗談だよ」


や、やっぱりそうだった!

いつだったか柳も言ってたもんね、男の甘いセリフは鵜呑みにするなって。

でも正直ドキドキしちゃったし、単純な自分が恥ずかしい。


「もう! やだなー秋ちゃん。変なこと言うのはお父さんだけで十分だよ!」

「はは、ごめん。でも会えて嬉しいのと、綺麗になったっていうのは本当。恋でもしてるの?」


そう言われて、条件反射のようにアイツの顔が思い浮かぶ。

頬が熱くなるのを感じながら黙り込むと、秋ちゃんはふっと目を細めた。


「そりゃするよな、年頃なんだし」


自分もまだ若いくせに、「若いっていいな」と漏らす彼がおかしくて、あたしも笑ってしまった。

また学校で、と言って車に乗り込み、ゆっくり発車させる秋ちゃんに手を振って見送る。


──彼はやっぱり大人だ。

車の運転も出来るし、顔色一つ変えずにあんな冗談も言える。

昔はまったく感じなかった年の差を思い知らされたようで。

ちょっぴり寂しい、静かな夜だった。